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「ひなまつりの室礼講座」講師・枝川先生インタビュー

「ひなまつりの室礼講座」講師・枝川先生インタビュー

REPORT レポート

室礼(しつらい)で年中行事をもっと楽しく

年中行事や人生の節目に、季節の恵みを室内に盛って(飾って)おもてなしをする、日本の美しい伝統文化――「室礼」。
四季彩和倶楽部の第2回目のイベントでは「ひなまつりの室礼講座&車屋の行事食」を行います。講師の枝川寿子先生に、当日の室礼を実際に見せていただきながら、その歴史と魅力について伺いました。枝川寿子先生のプロフィールはこちら


△ 左…今回実習する「ひなまつりの室礼」/右…講師の室礼研究家 枝川寿子先生

室礼の歴史

――そもそも「室礼(しつらい)」とは何でしょうか。

「室礼」を漢字で書くとなかなか読める人はいませんよね。昔は平仮名で「しつらひ」と書きました。『源氏物語』にも出てくる言葉です。平安時代の部屋は寝殿造(しんでんづくり)」といって、仕切りのない広い部屋に、屏風や御簾(みす)などの調度品を間仕切りに置いて飾り、晴れの日の儀式などを行いました。この「調度品で室内をその場にふさわしく整えて飾り付ける」ことを「設える」といい、この言葉が語源になっています。

室町時代になると、部屋の構造が今の和室の原型のような「書院造(しょいんづくり)」になり、「床の間」が生まれます。床の間がある部屋は儀礼的な場所、平たく言えば「おもてなしの場所」になりました。床の間の前には必ず、一番偉い人が座りますね。床の間を背にしておもてなしをするわけです。そこで床の間に花を活ける華道が生まれ、茶道、香道など“道”と名のつく作法が花開くのも室町時代です。同じ頃「室内の礼儀作法」という意味で「室礼」が漢字になっていきました。

――現代のように床の間の室礼になっていくわけですね。

もう一つ室礼の大切な背景として、根底には“稲作の農耕儀礼”があります。日本人は古代から農耕民族ですから、稲作をする中で、豊作を願うたくさんの年中行事がありました。日本人の心の中には「八百万(やおよろず)の神」のように“見えない自然を神として敬う”ということが昔からあったわけです。室礼というのは見えない神様を敬う“畏敬の念を表すかたち”として農耕儀礼には欠かせないものでした。室礼で神様をもてなすわけです。

年中行事の際には神様にお供え物をした後、それを下げて家族や親族みんなで食べることで神様の力をいただく「直会(なおらい)」という“神人共食”の儀礼をしますが、室礼はこうした見えない神様へのもてなしであり、直会によって、神様のご加護を家族にもたらすものでもありました。


△ 「豊穣」の室礼

――室礼では季節の実りの食べ物を盛りますが、神様へのお供えの意味があるのですね。

収穫への感謝を込めて、結果物を神様にお供えしているわけですね。農耕儀礼である年中行事は、一年の前半は「予祝(よしゅく=あらかじめ祝うこと)」の意味が込められています。五穀豊穣をあらかじめ祝うことで、神様にお願いするわけです。お正月の餅花もそうですし、お花見もそうですね。満開の桜を愛でて、稲穂が同じように満開になるのを願ったのです。
そして秋にはお月見や重陽の節供で収穫に感謝しました。年の前半は予祝で願い、年の後半は収穫に感謝する……一年を通じて願って感謝するというサイクルで動いているのが日本の一年間です。節供には桃の節供や端午の節供など、子どもの行事が多いのも、健やかに育つ予祝と、ここまで育ったことを神に感謝する想いがあります。


△ 餅花と千両の室礼

季節を盛る、言葉を盛る、心を盛る

――室礼は「飾る」と言わずに「盛る」と言うそうですが、それはなぜですか。

「盛る」という字を分解すると「皿に成す」と書きますね。お皿のない時代は、柏の葉などに載せて神様に供物を捧げていたわけです。神様に捧げるのに何もないところに置くのは失礼というので、せめて葉っぱに載せたりした。このように“皿に成す”ので盛ると言います。それから「成し得ますように(成功しますように)」という願いも込められています。
「季節を盛る、言葉を盛る、心を盛る」という三つを盛るのが室礼なのです。季節とは、季節の恵み。そして言葉というのは、例えば私たちは「成す」という言葉に掛けて「茄子(ナス)」を盛ることがよくあります。「成し得ますように」という言葉による願掛けです。こうした願いを言葉に込めるのが「言葉を盛る」ということ。そして、「心を盛る」は神様への感謝の気持ちです。室礼にはその三つが盛られているのです。


△ 「初夢」の室礼は言葉を盛る。ふじりんご一個で「一富士」、鷹の爪が二束で「二鷹」、砂糖漬けの茄子が三つで「三茄子」を表現。

――なるほど。そのような視点で、今回のひなまつりの室礼を見せていただきます。川のように見えるのは何でしょうか。


△ ひなまつりの室礼(部分)

今回はひなまつりの「流し雛」をイメージして盛っていきます。川に見立てているのは炒り米です。そこに人形(ひとがた)を作って流します。「流し雛」というのは要するに“禊(みそぎ)”なんですね。水辺での禊が元になっていて、昔はひなまつりの日に川遊びや磯遊びをしました。ひなまつりの行事食では、海の恵みの蛤(はまぐり)もいただきますよね。ですから、上流には里山をイメージした草花を盛り、下流は海へ注ぎ込むイメージで貝を入れていきます。くるみ貝は小さい蛤を古布でくるんでいます。炒り米の川に、岩の替わりにひなあられを置きます。


△ ひなまつりの室礼(部分)

――蛤の貝殻の中に盛られている草花はなんですか。

「母子草(ははこぐさ)」と「菜の花」です。ひなまつりには蓬餅(よもぎもち)を食べますが、昔は蓬ではなく、母子草を草餅にしていたんですよ。ひなまつりに母子草を盛るのは、ひなまつりとは“母と子の物語”だからです。

現在のように、雛段に人形を飾ったのは、徳川家康の孫で、後水尾天皇に入内した徳川和子(まさこ=東福門院)が起源だといわれています。和子は、娘の興子が女帝の明正天皇として即位する際、女帝は結婚ができなかったので、娘の幸せを願ってひなまつりをしました。そんな母と子の物語があるので母子草を飾ります。


△ ひなまつりの室礼(部分)

また、ひなまつりに菜の花と桃の花は付き物です。でも、私たちは菜の花を飾らずに、桃の花だけを飾りますよね。童謡で「灯りをつけましょぼんぼりに、お花をあげましょ桃の花」という歌がありますけれど、菜の花は出てきません。でも実は最初に出てきているんです。菜の花は油を取るでしょう。だから菜の花はぼんぼりの燈明の代わりなんです。

堅苦しく考えず、季節の節目に感謝して楽しむ

――なるほど、一つひとつの由来を知ると面白いですね。現代では床の間のない家も多いと思いますが、そんな時はどこに室礼を盛ればいいでしょうか。

堅苦しく考えずに、自分で神聖な場所を決めて楽しめばいいんですよ。例えば毎年、鏡餅を飾る場所はここだと決めるように。玄関の棚の上だっていいと思います。


△ 鏡餅と屠蘇飾り

今回、川に見立てている炒り米は「食べ物に苦労しないように」という意味があるのですが、米は蔵から来るので、お部屋で盛るときは蔵から来ている設定で上流、下流を考えて盛ります。人形に厄を移して川へ流し、厄払いをするのが流し雛ですから、玄関に盛る場合は、家の外に厄を流すイメージで、玄関の外が下流になるように盛るといいですね。

――室礼は、堅苦しい「しきたり」ではない自由さもあるんですね。

私は、別に「室礼にはこれがなくちゃだめ」というものはないと思うの。室礼として飾るひな人形も、自分が大事にしていたおひな様を飾っていただいていいんです。室礼をする日、しまう日のしきたりについて聞かれることもありますが、節分が終わったらおひな様でいいんです。いつ飾らなければいけないというのはないですし、しまうのだって「自分の田舎ではこうだった」というのもあるわけです。私の田舎では4月までおひな様を飾っていたというのならそれでいい。年中行事の意味を知り、感謝の心をもちながら現代に合わせて楽しむということでいいのですよ。

年中行事に込められた“日本人の心” を伝えたい。

――現代の自分の生活の中で、年中行事の意味を知って楽しめばよいと。

そうです。私は特に今の子どもたちに年中行事を伝えていくことが大切だと思っているのですが、お母さんたちは毎日忙しくて時間がありませんよね。だから地域の私たちが関わればいいと思うんです。私は今年度から地元の日野市の子どもたちに、季節の行事の意味と食べ物への感謝を、楽しみの中で伝えていく「行事育(ぎょうじいく)」をします。春は桜のお話をしながら桜餅を一緒に作ったりしてね。

室礼も同じことです。年中行事の室礼を通じて、私たちが食べ物をいただいて生きていることへの感謝、ずっと昔からつながってきた “日本人の心”を子どもたちにも伝えていきたいですね。

――日本の年中行事は、実はたくさんありますよね。

毎月あります。1月はお正月行事がたくさんありますし、2月は節分・立春で、私たちは「春迎え」といいます。3月はひなまつり、4月は花まつりやお花見、5月は端午の節供、6月は夏越の祓や水無月、7月は七夕、8月はお盆、9月はお月見、10月は重陽の節供、11月は七五三、12月は冬至……日本には一年を通じて、多くの年中行事があります。それぞれの室礼がありますから、ひなまつりが年中行事を楽しむ入口になるといいですね。

――室礼の材料は持ち帰れるのですよね。また、お土産も付けてくださるとか。

材料はお持ち帰りいただけるので、ぜひ家でお子さんやお孫さんと一緒に盛ってみてください。お土産は私が監修している、ひな祭りにちなんだ和菓子「ひぃなまんじゅう」をお付けします。季節の美しさを室礼で体験して、車屋さんの行事食のお料理でも味わって、お土産も含めて五感でお楽しみいただける講座になると思いますよ。


△ 
お土産のひぃなまんじゅう(イメージ)

――ありがとうございました。

ぜひ、日本の「ひなまつり」を五感で体験してみませんか。ご参加はこちら!

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